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川崎相続遺言法律事務所ブログ

2016年3月24日(木)

村木厚子「あきらめない」を読む

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1 なぜ読むか

私がよく行く本屋さんに,なぜか平積みになり続けている書籍があったので,買って読んでみました。

 

少し前に出た本ですが(2011年11月。文庫版は2014年12月),元厚生労働省の事務次官(逮捕時は局長)であった村木厚子さんの「あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ」(日経ビジネス人文庫)です。

 

村木さんは,いわゆる郵便不正事件で無罪を獲得された方です。

 

虚偽公文書作成容疑で逮捕され,164日間にわたり勾留され,無罪を獲得しました。検察官がフロッピーディスクを改ざん,証拠隠滅容疑などで逮捕・起訴、懲役の実刑までされた事件としても有名です。

 

いったいどのように生まれ育ち,このような逆境を切り抜けたのか,興味があったので,読んでみました。

 

 

2 「折れない心」の秘密

とても真面目で,責任感が強く,官僚の鏡のような立派な経歴をお持ちで,女性のロールモデルでもあり,良き家族にも恵まれた,素晴らしい方でした。

 

ご本人は「折れない心の秘密」として,「食べて眠れば人生なんとかなる」「今,何ができるかだけを考える」「好奇心があったから心が折れなかった」などと述べています。

 

その通りなのでしょうが,そのような気持ちになれたことの背景には,若いころから真面目に仕事などを頑張ってきたことがあると思います。

 

長い間に,自尊心が育まれ,今回の逆境にあったとき,自分は悪いことはしていないという確信,正しいことが認められるべきだという強い気持ちを持つことができたのでしょう。

 

 

3 なぜ無罪を獲得できたのか

弁護士としては,村木さんがどのように弁護士にアプローチし,弁護士とどのような協働体制をとって事件に立ち向かったのかに興味を持ちました。

 

 

ポイントのひとつは,弘中弁護士に早めに相談ができ,依頼ができたことです。

このような場合,刑事事件に強い弁護士に早期に受任してもらうことが最も大事なことです。

 

本件では,郵便不正事件報道が過熱し,逮捕が迫る中,同僚の方から弁護士に相談した方が良い,というアドバイスがあったこと,その同僚から弘中弁護士の紹介を受けたこと,夫婦である程度の蓄えがあり費用を用意できたこと,家族・お父さまからも徹底的に闘うと支援を受けたこと,などの事情がありました。

 

 

もうひとつのポイントは,弘中弁護士の徹底した弁護活動があっただけではなく,(勾留されながらも)村木さん自身も最大限の力を尽くして戦い続けたことです。

 

同書には,遠藤検事が取調調書を訂正していないことを弘中弁護士に相談したところ,確定日付を取るために弁護士宛に手紙を書くように指示されたというくだりがあります(150頁)。

 

このようなことが理不尽だと気付き,弁護士に伝えるという発想・気力がなければ,できない行動です。これをしなければ,後に証拠がないから主張できない,ということになってしまいます。

 

また,村木さんは、大量の開示された証拠資料に目を通し,証明書を作成した時のフロッピーディスクのプロパティの更新日時と検察のストーリーが矛盾することに自分で気付いたとされています(186頁)。

 

弁護士も大量の証拠を検討し,最大限の打ち合わせをしますが,事件のことを一番よく知っているのは当事者(被告人)です。

村木さん自身に,これらの証拠を分析する分析力・発想力・精神力などがなければ,弁護士といえども重要な証拠に気がつかないこともあります。

 

これが見過ごされていれば,無罪にならなかったかも知れないと考えれば,恐ろしいことです。

 

良い結果が出て,ほんとうに良かったです。

 

 

4 おわりに

私は「働く女性」ではなく「働く男性」ですが,「愛と勇気のメッセージ」をもらいました。

 

興味を持たれた方は一読をおすすめします。

(関口)

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